LMヘッドカノン集

弊屋敷の幽霊観

誰か特定の設定というわけではなくて、私の幽霊観なのだけど。うちでは幽霊は決して変わらないんです。幽霊としての業というか。

例えば地縛霊って、その土地から動けないじゃないですか。その場から離れたくない、というより離れる理由がない。死ぬその前までその土地に馴染んでいたのであれば、当然のこと。
それに、幽霊は享年の姿のまま現れる、というのもよくありますね。
つまり、死んだその瞬間にその人の時は止まってしまう。固定されてしまうんです。
……さすがに本当に「死んだ」その時となると、痛みだ苦しみだ快楽だ、色々と綯交ぜになってしまうので、ある程度の冷静さは与えられるのですが。

死んだその瞬間をピンで留められるかのように、幽霊は死んだその時から変わることがない。多少の揺らぎはあれど、性格が根本から変わることも、関係が大きく変化することもない。これが私の中での幽霊の大原則です。
だからセ・ノバスチャンは延々と屋敷の見回りをしているし、ピアン嬢がセノバの想いに応えることは決してないし、夫妻の心が別たれることはないし、ター・ハンちゃんの空腹が満たされることもない。
これは人間の輪を外れたものたちに科せられた呪いのようなものです。生者の枷である時間から解き放たれた代わりに、生者の特権である変化を縛られてしまう訳です。もちろん、原則には例外がつきものだけど。

 

例外1)それでも人間だったわけだから、経験を積むことは出来るし、それを記憶することも出来る。
肉体なき今、そこにあるのは魂……自我の塊だけ。積み重ねた過去・経験、すなわち意識の連続性によって自我の同一性は保証される。つまり経験を積み重ねて、それを憶えていられれば、死後でも少しずつ変化することは可能。
一度でも途切れたら、また1からやり直し。途切れる目安は3〜5日くらい。

人間の「覚えた/忘れた」がより顕著になっている感じ。人間と違うのは、オバケには記憶の定着がないことです。10年積み重ねた研究も、5日放置すれば全部パーです。記録を残すことは出来ますが、当事者がそれを見て「この研究すごーい! 誰がやったの? え、僕? 嘘でしょ?」となるのがオチ。
ブーニャちゃんはこれに苦しめられた最たるオバケです。うちのブーニャちゃんは諸般の事情あって豚に化けている設定なのですが、化け方を覚えるまでは死ぬほど(死んでるけど)努力してました。努力を水の泡にしたくなかったので。今でも1日に1回変化したり変化を解いたりしています。

 

例外2)この世界原則は、死んだことを自覚・自認している幽霊のみに発動する。
要は「まだ生きている」と思い込んでいるオバケは人間と同じように変化する。死んだことを自覚・自認したその時、幽霊としてその在り方が固定される。

アルプさんと夫妻、スー・ピー、ちょっと変則的ですがベビーラがこの例に当てはまります。
アルプさんと夫妻は、死んだ当初は違和感を抱えながらも自分たちは生きていると思っていました。今は自覚しています。夫妻はあまりこれの恩恵を受けていないのですが、アルプさんは死を自覚した原因がポール兄さんなので……あの「世界一仲の良い他人」状態で、関係が固定されたんですよね。アルプさんだけが。
スーは人格を分けることで死んだ事実を処理しました。居眠り中に死んでしまったので、起きているときの人格は、死んだ事実に気づいていません。普段から微睡んでいるので、あまりそこら辺にまで気が回っていないというのが正確。後天的に夢遊病じみて生えてきた人格(一人称:我の人格)の方が、死んだ事実を受け止めています。死にながらにして生きている唯一の子。
ベビーラは、死んだ自覚も何も、生まれた時(≒意識が芽生えた時)からオバケだったので、人格形成のために学習期間が設けられました。死後1〜2年くらい。その間、彼は自分も周りも生きているとずっと思っていました。そして死んだことを両親から明かされた時、大人に裏切られたという感覚が芽生えました。その時点で在り方が固定されました。だから大人って狡くて嫌いなんだよー!

うちの兄さんと登山家さんは世界一仲の良い他人

 

「友達? そんな言葉が似合うほど、俺たちの仲が熱く見えるのか?」
「悪友? ああ、中々悪くない。だが答えはノーだな。アイツは悲しくなるほどに真面目だからな、悪いこととは縁がないんだと」
「恋仲? 冗談も休み休み言ってくれないか」
「まあ、そんなに気にするなよ。当てられないのも無理はない。何せ俺とアイツは『他人』なんだからな」

 

正確には「(互いに)世界(にいる全ての意思を持つものの中で)一(番)仲の良い(と思っている)他人(同士)」。
つまり、2人は互いに「肉親を除く全ての中で最も仲が良いやつ」と思い合っている。「世界一」は客観ではなく彼らの主観なのがポイント。

 

他人という言葉には2つの意味が込められている。
1つは、2人の関係を既存のものに当てはまるのが難しいこと。
近い概念はブロマンスだけど、ブロマンスほど仲良し感はない。あくまで表面上の話だけども。深いところでは共感して共鳴して、親友やら恋仲やらぜーんぶすっ飛ばして、心が癒着してしまいそうなほどには仲良しだけど、表面上は付かず離れずの距離をずっと保っていて、割と冷めている。故に、絶対的に変わらない「他人」という関係で彼らを表す他にない。

もう1つは、彼ら自身が「他人」という関係に甘んじているということ。
どこで知ったんだか、彼らは互いの地雷を巧妙に避けている。正確には、回避行動を取らなくてはならない一歩手前で止まるのが絶妙に上手い。そりゃそうだ、他人なら心の奥底に踏み込まないのは当然だ。
絶対に地雷には踏み込まないという安心感があるから、彼らはひどい軽口を叩いてはそれを諌めるという一見危険な行動パターンを延々と繰り返し続けられるのだ。

要するに軽くて一見冷たい言葉のやりとりをしているけど実はめちゃくちゃイチャついているのがうちの2人です。別に付き合ってはないです。他人なので。

 

シャワー美人の部屋に勝負師の部屋の鍵があった謎

原作だと「このオバケ倒すとどうしてこの部屋の鍵が手に入るの?」案件はそこそこあるけど、ここの繋がりも中々不思議だなって思ったので。
考察ではありません。妄想です。

 

「実のところ、わたしたちって似た者同士なのかもね」
「アンタがそう言うなら、俺も胸を張って主張できるな。実体のないものに愛されると碌な目に遭わない。……まあ、愛は貰えるだけ貰ったつもりではあるが」
「わたし、あなたのそういうところは好きになれないわ」
「そりゃそうだ、俺もアンタのことは好きじゃない」
「ああ、同族嫌悪ってやつ?」
「まさか! アンタほどの花形スターと自分を重ね合わせるほど、俺はどうかしちゃいないさ。ただ単に、アンタを見ていると目が潰れそうってだけだ」

 

共通点:人でないもの(概念)に愛され、そのせいでロクな目に遭わなかった人間である。

ブーニャちゃんは、素性不明のモデルとして人気を誇った女性。その愛されっぷりは、当時から時代の寵児と呼ばれるほど。
ポール兄さんは、賭け事において絶対無敗を誇った男性。その豪運っぷりは、運命の女神に愛されていると自他共に認めるほど。

時代も、運命の女神も、実際に見ることも出来なければ、意のままに操ることもできない。むしろ人間たるこちらが翻弄されるのみ。
そして、そういった無形のものに愛された人は、大概人間関係がロクなことにならない。

ブーニャちゃんの周りに群がる人は玉石混交。本人の人柄もあって、友人は多い方だった。それでも「素性不明」の律を破らないために、親しい付き合いはほとんどしてこなかった。それによって流言飛語も誹謗中傷も飛び交ったけど、ひとつも余すことなく受け止めた。許さなかったのは、自分の夢を全面的に阻害してくる者だけだった。

ポール兄さんの周りにまともな人間はほとんどいなかった。男も女も溢れていたけど、誰一人として信じていなかった。信じられるのは自分だけ。誰かに心を許そうものなら、取って食われてお終い。上辺だけの関係ばかりを築き、簡単に切れる縁だけを結んだ。唯一心を許した女性には裏切られ、最後には自分さえも信じられなくなった。

二人は紆余曲折あって自ら死を選び、数年の時を経て初めて顔を合わせた。生前の境遇を互いに理解し、共感した。境遇の共感はとても強いものだった――人でないものに翻弄される人生を歩むのは、ほんのひと握りの人間だけだから。

とはいえ別段仲が良いわけではない。ポール兄さんにとってアルプさんとの仲を超える幽霊なんているわけがないし、ブーニャちゃんはババーラおばあちゃんの方が仲良しと言えるくらい(※うちのブーニャちゃんとおばあちゃんは普通に仲良しです。おばあちゃんがちょいちょい悪戯するけど、ブーニャちゃんがすぐに水に流すのであまり拗れない)。

心を預け合うなんてこと、するわけがない。そういう境遇であったことを互いに知っている。
信頼も別にしてはいない。そこまで彼/彼女に傾倒はしていない。
ただ信用できる相手。二人にとっては、それで良かった。

生前からずっと第三者の目で見てきて、境遇も分かっている、芯の強い明け透けな女。
彼女のことは個人的には苦手だった――生きる世界が違うと思っていたし、天真爛漫の皮を被った聡明な女性は対応に困る――けども、それは信用とは関係ない。
彼女は強い信念を持っていて、それに外れる行為をしない。生前から死後までの彼女を見ていればそれは明らかだ。強くはないけど強かだし、豚状態ならそれなりに健闘してくれるかもしれない。
負けてしまったらそれまでと思って、勝負師はシャワー美人に鍵を預けた。

結局、賭けにならないほど強力な掃除機が現れてしまうわけだけど。